- 2014.08.27 -
T&C Classic Audio Equipment Gallery
第ニ話 鉱石ラジオ(クリスタルラジオ)
鉱石ラジオを紹介する前に、マルコニーが大西洋横断通信に使った火花式送信機の卓上版として1920年前後に使われた放電器と受信検出器
「コヒーラ」を使った至近距離実験をお知らせする予定でした。残念ながら当時のコヒーラ検出器は入手できず、コヒーラ検出器のレプリカ品を
作る必要が生じました。とはいうものの、コヒーラ検出器などそうそう簡単には作れるとは思えず、試行錯誤を覚悟して挑戦していますので後日
改めて実験結果などお知らせします。
前置きはさておき、鉱石ラジオは雑音発生器のような火花送信機電波と異なりきれいな放送電波を受信しますが、同調回路(選局回路)が必要
であり、コイルとコンデンサー(キャパシタ)を用いて電波を音声に変換する検波回路として鉱石を使います。そして音声を聞くイヤホン(ヘッ
ドフォン)と組み合わせてラジオを聴くという必要最小限の部品で構成されています。つまり電池などの電源を使わずにラジオを聴くわけですが、
聞くためのエネルギーといいますと電波自体ごく微弱な電磁波としてのエネルギーを持っていますので、このエネルギーを鉱石とイヤホンで聞く
わけです。
作動原理など難しい理論は別の機会にしますが、ここでは鉱石ラジオの鉱石とは何か?について簡単にお話しします。
鉱石ラジオの鉱石は、どこにでもある鉱石標本にある原石であって、その正体は「方鉛鉱」そのものです。方鉛鉱はただの石ころですが、他に
も黄鉄鉱や紅亜鉛鉱などが使えます。勿論シリコン鉱石だって立派に作動しますしカーボランダムも使えますが、シリコンは現代の産業において
ICの基本材料であることはどなたもご存じの通りです。
【古典音響機器ギャラリーに各種鉱石がありますので、ぜひさわってみてください。また鉱石を欲しい方は展示してあります鉱石を砕いて一部を
お持ち帰り頂けます。尚カーボランダムはダイアモンドに次いで硬度が高いので、ガラスに傷がつけられますが、製造時のブロック石はボロボロ
崩れますので簡単に細分化できます】
左側:方鉛鉱 中央:黄鉄鉱 右側:シリコン
左側:天然の紅亜鉛鉱 中央及び右側:人工の紅亜鉛鉱
話が横道にそれましたが、鉱石ラジオの鉱石は、皆様ご存知の通り一方向に電気を流すダイオードとして機能します。
一方向へだけ電気を流す機能を再現するためには、下図のように鉱石の表面を針で探り、ダイオード特性の最良点を探します。
このように鉱石の表面を針金の先端で感度の高いところを探しますが、時間の経過とともに感度が下がるので、感度が悪くなるたびに表面を
なぞって最良点を探し出す必要がありました。そのための針金を猫のひげに例えてキャットウィスカーとか、探り式鉱石検波器と呼びます。
海外の多くの鉱石ラジオは探り式鉱石検波器を採用しており、さらに多くの会社から鉱石検波器自体を販売していました。
規格化された鉱石
規格化された鉱石を用いた猫ひげ検波器
検波器の調整があまりに面倒なので、後に完全固定式の検波器が幾つかの会社から販売されました。当時日本では古河鉱業のFOXTONと称する
鉱石検波器が有名でした。ただ固定式ゆえに感度が低下すると調整箇所がありません。もったいないので鉱石検波器自体を机などに「叩き付けた
ショック」で針先を移動させたり、検波器本体の横にある穴から棒を挿し込んで「中を突っついたり」と、結構乱暴な感度調整方法?を個人的に
採用しておりました。私はこれが意外に有効であったと記憶しています。
固定式鉱石検波器
猫ひげ検波器を用いた鉱石ラジオ(米国HOWE社製)
日本では戦後鉱石検波器に代わりゲルマニュウムを用いたゲルマニュウムダイオードが普及すると、子供の教育用として下記写真のようなゲル
マニュウムラジオが安価に出回りました。団塊の世代の方には遊んだ記憶があるラジオではないでしょうか。
ゲルマニュウムラジオ 2機種
アンテナは電灯線の片側をコンデンサーで絶縁した簡易型が用いられました。
内部は写真の通りコイルとバリコン、及びゲルマニュウムダイオードとクリスタルイヤホンでラジオが聞くことができます。但し、鉱石ラジオ
は受信電波エネルギーで働きますので残念ですがスピーカーを鳴らすことは出来ず、クリスタルイヤホンからの微小な音声を聞くのが精一杯です。
ただ電池がいらない魅力がありますので、現在でも愛好家が好んで鉱石ラジオ制作に励んでいます。
*クリスタルイヤホンのクリスタルとは内部にロッシェル塩の結晶を用いているのでこの名がつけられています。ロッシェル塩の結晶に電圧を加
えると、機械的ひずみが生じる特性があり、そのひずみをアルミ箔の振動板に伝えることで音が出ます。このためクリスタルイヤホンと呼ばれて
います。尚、ロッシェル塩は湿気に弱く、現在入手可能な同形のイヤホンはロッシェル塩ではなくセラミックが用いられていますが、その性能は
ロッシェル塩より劣ります。
2014年 8月27日 中鉢 博