- 2014.09.17 -
T&C Classic Audio Equipment Gallery
第ニ話 その2 番外編:火花送信機とコヒーラ受信機の実験結果
第二話の冒頭で、マルコニー火花送信機とコヒーラ検出器のレプリカ制作について実験のお知らせをしましたが、試行錯誤を覚悟して最初の
試作品を作動させたところ、驚いたことに、最初の試作品が実に良好に作動し、何かの間違いではと思い、数個同じものを作りました。これが
またすべて良好に作動することを確認しました。そういうことで急遽番外編としてその顛末をご紹介することにしました。
尚、実験のために作成したコヒーラ受信機は作動確認が目的でしたので、使用材料や寸法など最良点の追究は行いませんでした。もし機会が
ありましたら改めて追試験を行いたいと思います。
試作品の部品は、近くのホームセンター(東急ハンズ)などで購入、手に入り易い身近な材料を用いて作りました。作成方法に興味がある、
より詳しく知りたいというご要望がありましたら、改めて試作資料をご紹介するようにいたします。ご遠慮なくページ上のメールボタンでお知ら
せください。
火花式無線通信の原理、製作について出来る限り簡単に、初心者の方でも分かり易くという視点で説明したいと思います。
コヒーラ受信機
電磁波(電波)を検出する目的で、2つの電極間の電気抵抗値が電磁波(電波)を「受信」すると変化することを応用した受信機です。
電磁波(電波)を受ける前は、コヒーラは高抵抗で電気を流しませんが、電磁波(電波)をコヒーラに繋がっているアンテナが受けるとコヒーラは
低抵抗になり電気を流せるようになります。
(図ではスイッチに当たる所がコヒーラでその変化をスイッチに例えて表しています。電磁波が受信されると、そのエネルギーでスイッチが入り
回路が繋がり、電磁波が受信されたことを知らせる電球が点灯します)。
これにより空間を伝わってくる電磁波を検出することができます。
通常状態ではコヒーラに電気が流れませんが、電磁波(電波)を受信するとコヒーラの内部が導通状態に変化し接続した電池と電球が点灯します。
但し、一度導通すると電磁波が無くなっても点灯し続ける性質があります。これを初期状態(絶縁状態)に戻すには機械的振動を外部から与え、
消灯する必要があります。このため電磁波を連続して受信するには、コヒーラをベルのような振動を与える動作(デ・コヒーラ)が必要となります。
この振動を与える装置をコヒーラに組み合わせることで、当時の電信、つまりモールス信号のような長短断続した信号の受信が可能となります。
デ・コヒーラ
現代の素材でコヒーラを作る
実際に試作したコヒーラは外径8㎜程度のアクリルパイプ、それより小さな外径のアルミ棒を使用しそれらをカットします。アルミ棒は電極として
アクリルパイプの両端に挿し込みます。電極の間の空間には、細いアルミ線をニッパで細かく切り出したチップを詰めた簡単なものです。
試作品分解写真 組み立て後写真
構造
古い資料の写真などを参考に作ったもので、写真で分かりますように特に変わった構造でもなく、アルミ棒を加工した2つの電極間に細いアルミ
線をチップ状に切り出したものを管内で挟み込んだものです。当時はアルミではなくニッケル粉末を用いたようですが、ここではアルミ材チップを
用いています。
ニッケル(ここではアルミ)の表面は最初酸化膜に覆われており、両電極間はその膜により絶縁されています。ここに電波などの一定電圧以上が
加わると、酸化膜がその電圧により破壊され導通状態になります。一度導通状態になると電波が無くても導通状態を維持してしまいますので、外部
から「叩く」などの衝撃をコヒーラに与え、アルミ粉末の微細な接触点を動かし酸化膜との接触を増やすこと再び絶縁状態にします。
送信機
当初は長波や短波などといった周波数の概念ではなく電磁波として扱っていましたので、電磁波発生器・電磁波受信器だけであり、電磁波を
発生させるには、高圧電気を用いて空中放電させる電気のスパーク(放電)を用いました。丁度カミナリが落ちた瞬間にラジオなどからバリバリ
といった雑音聞いたことのある方も多いと思いますが、その雑音も電磁波です。
カミナリはラジオの周波数ダイアルと関係なくどこでもバリバリと雑音がでる通り、あらゆる周波数に電磁波がばらまかれていて、いわゆる雑音
発生器です。そのため現在の電波法では火花送信機の使用は禁止されています。
今回の実験は室内のみの微弱な実験ですので電波法の適用外です。ただし通信距離を伸ばすために大きなアンテナなどを接続することは厳禁です。
さて、電波を出すには火花放電でスパークを発生させれば良いことから、トランスの昇圧回路を用いて数万ボルトの高圧を発生させます。
この放電をモールス信号のオン・オフの組み合わせとして送出すれば送信機となります。
送信機全景
放電状態=送信状態
写真で実験に用いた高圧発生器は1900年頃のものですが、鉛蓄電池と電鍵は現代のものです。
受信機
小さなアンテナにコヒーラ検出器、そして受信確認用に乾電池とLEDランプで点灯するだけの簡単な回路で代用してみました。写真では
デ・コヒーラをつけていない状態ですが、試験で簡単なベル機構または振動モーターを用いてのデ・コヒーラの作動確認は行いました。
写真の装置は、コヒーラを手で叩くなどを通じコヒーラ、デ・コヒーラの作動を体験できるようにしています。
実際の回路は見ての通り極めてシンプルですが、作動は良好です。
写真ではコヒーラ検出器から電池までのリード線がコイル状になっていますが、これはインピーダンス整合のためで、わざとコイル状にしてあ
ります。実際はコイルが無くともそこそこ動くことも確認していますが、広帯域ならではの現象と思われます。
実験
1900年前後の高圧発生器を用い、6Vの鉛蓄電池と電鍵で火花送信機を組み上げ、受信機にはコヒーラ検出器と電池、電球に代わって発光ダイオ
ードを用いて実験を行いましたが、送信機による一瞬の火花でも、確実に発光ダイオードが点灯し電磁波を検出していることを確認できました。
また通信距離はおおよそ2m程度でした。尚、100円ライターの高圧放電で点火する圧電素子を用いても、ちゃんと作動することが確認できました。
《番外編》あとがき
コヒーラの制作は製品ご紹介の流れで作ったものですので、ご専門職の方から苦笑的な内容になっているかと思います。しかし何とか基本作動
を得ることができました。
資料を読みながら必要な材料を集めましたが、商売としての研究ではなく趣味の世界に近いものですので、費用の点から身の回りで入手可能な
ものを模索しました。
最初、ニッケル粉末の入手では粉末のサイズからはじめ、皆目見当がつかず。さらにはニッケル粉末が高価で入手しにくので、身近なニッケル
金属を捜したところ、硬貨に使われているようでしたので、日本の硬貨をはじめ米国・イギリス・台湾など出張の際に持ち帰った各種硬貨を片端
から磁石で選別しました。現在ではニッケルを使った硬貨は見当たらず、唯一香港の50セント硬貨が磁石に反応しましたので、ニッケルではと
考え削って粉末を作ろうと思いました。しかしそれは日本をはじめ硬貨を通貨としての使用目的以外で使用することはダメなようで、硬貨の変造
は問題があるようです。
(米国で1セントのペニー硬貨を潰してメダルを作る機械があります。米国では硬貨変造が可能かわかりませんが10セントのニッケルと呼ばれる硬貨
もニッケルではありませんでした。)
そんなことでネットで素材を調べたところ、コヒーラの実験にはアルミ箔を丸めボール状にしたものをいくつかコヒーラの実験に用いていました。
これならアルミの酸化膜が使えそうだと判断し、おもむろに手元のテスターと重ねた1円玉数個及び圧電式100円ライターで簡単な実験を行ったとこ
ろ、作動はとても不安定なもののコヒーラとして動くではありませんか!
ならばと粉末というか、小さなアルミボールでも動くのではと小さなアルミボールを捜しましたがこれは入手できませんでした。ボール形状で
なくても動くのか?と、次に考えたのが細いアルミ線を1㎜程度にニッパで切りだして切りっぱなしのゴツゴツチップと、電極も昔の写真を参考に
アルミ棒を切って作ってみました。当時はニッケル粉末を使ったようですが、私の実験では細い0.9㎜程度のアルミ線を2㎜程度にカッターで切った
ものを使いました。
ご紹介した写真のコヒーラ検出器ですが、実に良好に作動するもので、自分でも少々あきれるくらいですが、ホームセンターで入手したアルミ材
の純度や、製作したコヒーラの各部品の寸法など、何の根拠もなく作りましたので最適値か否かは何も確認しておりません。コヒーラ現象の確認が
目的でしたので、いずれ時間がありましたら今少し詳細な実験をしてみたいと思います。
尚、試作コヒーラ受信機と火花送信機はギャラリーに展示しますので、興味のある方はご覧頂くことができます。
2014年 9月16日 中鉢 博