- 2015.07.31 -
T&C Classic Audio Equipment Gallery
第七話 真空管について
真空管って何? 若い方から質問されることが多くなりました。
読んで字のごとく中が真空になっている管(ガラス管など)で、照明に使われる一般的な電球も真空管の一種ですが、テレビやモニターも
昔は奥行きのあるガラス製の大きなブラウン管でしたが、これも真空管の一種です。
今回ここではラジオに使用されていた真空管についてご紹介したいと思います。
外観は写真のような恰好で鶏の卵程度の大きさでしたが、真空管の後期になると小指の先ほどの真空管が開発されたものの、トランジスターが
発明されると一気に衰退していきました。
さて、真空管と言えば第五話でご紹介しました。古くは皆さんご存知のエジソンが商業化した電球は真空にしたガラス管内部に日本産の
「竹ひご」を炭化させて電気を流し夜間に明るい照明をもたらしましたが、本来の真空管とはこの電球に今少し細工を施したものを指します。
初期の真空管は何に使われたのでしょうか?
多くは電気の増幅作用を応用したものですが、なぜ電球に細工をすると増幅作用が生じるのか、理由は次の通りです。
電球のヒーター(フィラメント)を点灯させると、熱電子といわれる目に見えないものがヒーターの周りに発生することがわかると、その応用が
一気に進みました。
点灯したヒーターは高温になり、ヒーターから飛び出した熱電子はヒーターの付近でウロウロしています。少々難しくなりますが電子自体は
マイナスを帯びていますので、近くにプラスの電極が有れば電子は吸い寄せられ、マイナスの電極が有れば電子は反発することがわかりました。
正方向に電気は流れるが反対方向には流れないこの現象については第二話でお話ししました鉱石ラジオに使われた鉱石検波器と同じ作動ですが、
真空管式は鉱石検波器と比較して圧倒的に大電流が流せますので、蓄電池の充電器などに応用されました。
このヒーターから電極(ここではプレートと呼びますが以下プレートと呼びます)へ到達した熱電子の量を制御する方法として、ヒーターと
プレートの間に隙間の大きな網目の金網を入れますが、この網目をグリッドと呼びます。
網目のグリッドに何もしなければ、熱電子は金網の隙間を何事もなかったように素通りします。熱電子はマイナスですのでグリッドにマイナスの
電気を加えると、熱電子はお互いに反発しあってヒーターからの熱電子はグリッドに押し戻され電気が流れにくくなります。
この原理を応用してグリッドのマイナス電圧を変化させるとプレートへ到達する熱電子も変化し、結果として増幅作用が生じますので増幅器とし
て用いることができる訳です。
実際の初期真空管を眺めますと、絵に描いたままの構造で作られていて少々びっくりします。その後は改良が積み重ねられたものの、基本構造
は何ら変わらず、その後に何千種類の真空管が作られました。ある程度電気の解る人がガラスの中を覗くと大体の規格がわかり、これは電力管
とか5極管とか、この程度の出力が得られるなどと自慢することもできた時代でした。
真空管に見覚えのある方は、真空管ガラスの内側にランダムな銀色の鏡のような部分、これが一様ではなく結構ムラがあることに疑問を持った
方もいるかと思います。
これは真空管製造工程で、最後に真空ポンプを使用して管内部を真空にしますが、思うような真空度が得られないために施された工夫なのです。
それは真空管制作の最後の工程で、管内部にマグネシュームなどを置き、真空封印の後にこのマグネシュームを一瞬燃やすことで内部の酸素など
を結合させ真空度をあげるのです。この燃焼の過程でガラス管の内側がメッキをされた状態になるわけです。
半導体の歴史は 鉱石検波器 → 真空管 → トランジスター → IC(集積回路) へと変遷しましたが、ICの微小化はいまも続き
卵大の真空管と同じ動作がICでは1ミクロン以下で行えるということでその進歩には驚くばかりです。
真空管は電源を入れると表面のガラスを通してヒーターの薄オレンジ色をしたわずかな光が見えますが、薄明りの下でこの真空管アンプから
漏れるオレンジ色のヒーターを眺めながら聞くレコード(今はCDやフラッシュメモリーでしょうか)に郷愁を感じる方もまだまだ多いのでは
ないでしょうか。
平成27年 7月31日
中鉢 博