- 2014.11.29 -
T&C Classic Audio Equipment Gallery
第四話 モールス式信号機
第4話はモールス式電信通信についてお話しします。
はじめにモールス式電信に関しての資料の中で、下記の記述がありました。
モールス式電信
「アメリカでサミュエル・モールスとアルフレッド・ヴェイルが電信を発展させた。モールスは1836年に独自に電信を開発し、低品質な導線でも
長距離で伝送が可能な設計をした。彼の助手のヴェイルは、アルファベットを表すモールス符号の考案に関与した。
1844年5月24日にモールスは、ワシントンD.C.の最高裁判所からボルチモアのボルチモア・アンド・オハイオ鉄道に向けて最初の公式の電報を
送った。」
広く知られているモールス信号とは、例えば短点と長点の組み合わせであるト、ト、ト、ツー、ツー、ツー、ト、ト、ト、
モールス符号で書くと・・・ ― ― ― ・・・となり、これは海難事故の中で出てくる緊急信号としての「SOS」が有名です。
なぜ「音声」ではなく電信なのか?ですが、電話が発明される前は電線に音声を乗せる技術が無く、単純に電線に電気が流れるか流れないかの
判別しかできなかったのです。
原理を簡単にすると下図のような電池とスイッチ、そしてベルの構成となります。スイッチの入り切でベルが鳴ったり鳴らなかったりすることが
ご理解頂けると思います。この入り切でモールス信号を作ります。
つまり電線を延々と遠くまで引き延ばせば、遠方でベルが鳴らせることになります。
当時はベルではなくサウンダー(sounder)と呼ばれるリレーのようなものと、スイッチとしてモールスキー(Morse key:電鍵)と称するもの
を使っていました。
サウンダー サウンダーと電鍵がセットのもの
電信は近年ほとんど使われなくなりましたが、つい近年までは実用として使われていました。
また、アマチュア無線家は今でも趣味の世界で使っていますが、1分間に何文字送受信できるかを競争することもあり、操作の早い人はゆっく
りしゃべるくらいのスピードでトンツーと電信通信による通信を楽しんでいます。
モールスと電波、今に繋がるもの
少々専門的なお話になりますが、電信の有利な点は、音声通信は微弱な電波ではある程度の強さ(パワー)が無いと通話はできませんが、電波が
かろうじて届く程度のパワーと「信号=電波の断続で表される信号」、があれば通信が可能になります。つまりモールス信号のスイッチオン、
スイッチオフによりその微弱な電波を切ったり入れたりする信号であるモールス信号を用いれば、二つの状態という単純な信号構造のおかげで
通信の内容を読み取ることができ、結果遠距離通信に適していることになります。
このオンとオフで表現される信号は、現代の極めて早いスピードのデジタル電信(通信)と同じ原理ということになります。違う点は手作業
であるというところです。
信号の有無(パルスの有無)さえ確認できれば通信を行うことができ、また単純な信号ゆえにノイズに強いという特徴を併せ持つことになります。
例えば初期のアナログ携帯電話はオンオフでできた信号ではなく、音声をなぞる信号(アナログ)で通信をしていましたので、電波が弱いとザー
ザーと音声以外の他のそれより強い電波(ノイズ)が混入したとき、それも含めて音声にしてしまうため聞きとれない状態になったりすることが
ありました。
またアナログのテレビも同じで、3つの色の信号はそれぞれ写す絵の元の色の明るさをなぞりますので、そこに電波(ノイズ)が混ざると色の信号
が狂い、受ける方は雪が降ったような画面やチラつく画面が表示されたりしました。最近のテレビはデジタル化されていますので、昔のテレビの
ような現象は無くなり、映るか映らないかのどちらかになります。これも信号が有るか無いかの判別で処理しているからです。
このように180年も前の電信技術は、スピードは異なるにしても今も最先端技術として応用されるのはすごい事と思います。
展示品について
キー(電鍵)は第一次・第二次世界戦争でも使われ、電信技術の主力でした。実際に使われた軍用キーは下記写真(英国軍規格品)のような結構
丈夫なものです。
軍用の電鍵
この他にも、戦時中は船舶や飛行機など揺れが激しく環境が厳しい場所でも通信が可能なように、膝にキーを縛って使うタイプもあり、入力装置も
現代同様、用途に適した設計が施されていました。写真では紹介しておりませんが、膝用キーも当ギャラリーに展示してありますので、興味のある
方は是非一度ご覧いただければと思います。
2014年 11月29日 中鉢 博