- 2023.8.3 -
T&C Classic Audio Equipment Gallery
第三十三話米国コロンビア・グラフォフォン社 蝋管録音再生器蝋管録音/再生蓄音器「DICTAPHONE」ディタフォン
第三十二話は1914年の米国コロンビア・グラフォフォン社の蝋管蓄音器「DICTAPHONE」ディタフォンの紹介です。
社名がややこしいのですがアメリカングラフォフォン社がコロンビア社と統合して米国コロンビア・グラフォフォン社になりました。
尚、社名が似ていますがグラモフォン社とグラフォフォン社は異なった会社です。
歴史を調べてみると各社の関係に興味を惹かれる事柄が多々あり調査も面白いかと思います。
この蝋管蓄音器「DICTAPHONE」はこの1台で録音再生が可能で口述を録音してすぐに再生出来るので何度も聞き直しができタイプライターで文書化するのに利用されていました。
ひと昔前はテープレコーダーが流行りその後はCDなど電子媒体から現在は半導体メモリーに代わっていますが、1900年初頭はまだ電気的に録音再生ができる技術がなかったので機械的に音声を蝋管に刻む方式でした。
当然アンプなどの増幅装置は有りませんので発生した音声はパイプを通して直接振動板に伝え振動板に付けた録音用ケガキ針で蝋簡に直接音声振動を刻んでいきます。
次に音声を再生する場合は刻んだ溝から音声を取り出しますがケガキ針を使うと再び溝が刻まれてしまうので針先が丸い再生用針を用いて溝を傷めないようにトレースすることで記録した音声を再生します。
もちろん丸い針先が付いた振動板で再生しますので振動板から発した音声を録音で用いたパイプを通して聴きますので、写真にある口当てのようなマイクロフォン金具で録音しますが再生時はこれがイヤホンになります。
マイクロフォンについているボタンが録音・再生時の運転・停止でボタンを押している時だけ録音・再生するようになっていますがモーターの回転を伝動するクラッチのような機構をON/OFFする構造です。
録音は蝋管と呼ばれる円筒形のレコードに音声を刻んで録音しますが一般に音楽など録音されている蝋管とは材質が異なり多少柔らかい材質で作られています。
再生する時は録音で刻んだ溝から音声を取り出すので当然録音と再生の針は異なります。
再生時に録音針で再生すれば当然再度溝が刻まれるので音声が消えてしまうので録音と再生は異なった構造の針を使いますが振動板は一つなので録音用針と再生用針を一つの振動板に微妙な角度をつけてあり、振動板と蝋管の当たる接点の角度を変えることで針を変えることなく使い分けを行います。録音時と再生時の針圧も異なりますがこれも機械的に針圧を変える機構が実に巧みに作られています。
録音と再生の切換は振動板が蝋管の表面に接触する際に振動板と蝋管の当たる角度をわずかに変えることでどちらかが先に蝋管に接触する工夫がされていて、かつ針圧が異なりますので針圧も機械的に変えるようになっています。
録音時は蝋管を削りながら録音しますので針圧が高く再生時は溝をなぞるだけなので針圧は低くします。
録音用の針は円柱形のサファイア断面を鋭くカットした形のカット面で蝋管を削っていきますので削った溝の断面はちょうど半円のような形になりますが、録音する音声に従って振動板が上下に動きますので削る断面の半円が音声波形に従って浅くなったり深くなったりします。
これは縦振動記録と呼ばれる記録方式で一般的な円盤レコードのように溝が左右に揺れるような横振動構造ではなくエジソンが最後まで蓄音器の記録構造としてこだわった技術です。
でも、このこだわりが他社の横振動方式に凌駕されエジソン蓄音器が消えた原因でもありました。VTRレコーダーのソニーのベータ式とビクターのVHS方式の争いのようなものでしょうか。
蝋管レコードの再利用
すでに音楽などが録音されている蝋管と録音が可能な蝋管レコードは材質が異なりますので録音されたレコードは再利用することはできませんが録音可能なレコードはやわらかめの蝋材で作られていて新品時は表面がつるつるの状態です。
このつるつるの表面に録音用針で溝を彫りながら音声を記録していきますが、一般的なレコードのように溝に沿って針が動く構造とは異なりつるつるの表面には針のガイドがありませんのでエジソン蓄音器は針が一定の速度で動くようにギア機構で強制的に針を少しずつ移動するようになっています。
さて、この一度録音した蝋管の表面は溝が刻まれていますのでやり直しができません。従ってもう一度再利用する時は表面を薄く削り取り元のつるつるの状態にすることで再利用することができるようになります。
しかし何度も削ると蝋管が薄くなりますので機械的に再生可能な限度があり、削り方や機械の調整によって異なりますがおおよそ2~30回程度は使えそうです。
尚、削る方法はエジソン蓄音器の多くにシェーバーと呼ばれる削り機構が付いたものがあります。
基本的には蝋管の再生時に数ミリ幅の彫刻刀の平歯のようなガラス製削り歯があり、回転している蝋管にこの歯を微調整しながら端に当てて蝋管再生時と同じように動かし端から少しづつ研削しますので削る時間は音楽再生時間と同じ2分または4分かかります。
但し、蓄音機のスプリングは再生用なのでさほど力もなく蝋管が僅かに偏心していたりするので深めに一回で削ろうとすると回転が止まって研削できません。
従ってほんの少しずつ全体面を3回から4回程度(なので10分以上かかりそうです)削る必要があります。
この再生蓄音器「DICTAPHONE」ディタフォンにはシェーバー機構はついていませんのでシェーバー専用機またはシェーバー付きエジソン蓄音器を使って削ります。
写真のシェーバー機構はエジソン蓄音器スタンダードモデルのシェーバーを用いています。
使ってみました
表面をつるつるに研磨した蝋管をセットして「DICTAPHONE」ディタフォンを録音状態にします。フレキシブホースが付いたマイクロフォン兼用イヤホンを口元に当ててマイクロフォンに付いているボタンを押して作動させます。
約2分以内で例えば「只今録音試験中 &$#・・・・・」と大声で話したあと押しているボタンを離すと機械が停止しますので次に再生状態にセットします。
再生針をスタート時点に戻してマイクロフォン兼用イヤホンを今度は耳に当ててボタンを押すと録音した音声が思った以上に大きな音で聞こえます。
2分以内であれば何秒でも録音でき、録音された部分の溝は目で見てもわかりますので録音されてない部分に後から録音することも可能です。
一度録音した部分に再度録音すると溝が壊れ使うことができませんので再度シェービングして新品の状態にする必要があります。
尚、ボタンでの操作のみで録音・中断・再度録音の操作では溝が連続し一本線としてつながっていますので再生時に連続再生ができますが、一度完全停止したりなど任意の位置での操作録音などを行った蝋管は録音ブロック毎の溝がそれぞれとつながっていないので複数録音の連続再生はできないものの各々の部分再生はできます。
現在我々は超小型電子式レコーダーなど電子化されていて簡単に録音・再生が可能な機器を当然として使っています。
しかし100年以上前に素人でも録音できる機械式蝋管蓄音器があることに我々は驚きですが当時の人はこの蓄音機の存在があることにもっと驚いたのではないでしょうか。
また、面白い構造として録音時に蝋管の最後部分を過ぎるとはみ出て録音が出来ませんので昔のタイプライターと同じ最後部分に近づくとベルが「チーン」と鳴ってこれ以上録音が出来ませんと教えてくれます。
令和5年6月
中鉢 博