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古典音響機器ギャラリーT&C Classic Audio Equipment Gallery

〜半導体開発の原点に立ち戻る〜

- 2014.10.14 -


T&C Classic Audio Equipment Gallery

 

第三話 エジソン蓄音機

 

 

 

 エジソンは電球と蓄音機で有名になりましたが、第三話はエジソンの蓄音機についてお話しします。

 

 本や雑誌、インターネット等でエジソン蓄音機の原理等は掲載されていますが、実際の針先や記録方法等を説明した資料がほとんどありませんで

 

 した。そこで実際に蓄音機を見てみると、エジソン氏のこだわりは異常と言っていいほど最後まで「縦振動」記録にこだわっていたことが伺えます。

 

 しかし、このこだわりは最終的に残念な結果、つまり他社製品の攻勢の前に負け、エジソン氏の発明したエジソン蓄音機は市場からあえなく消え去

 

 ることとなりました。これは丁度日本ビクターの開発したVHSテープとソニーのβテープの戦いと良く似たものでした。

 

  そこで今回はギャラリーに展示するエジソン氏が発明した蓄音機の実物の写真をお見せしながら、そのこだわりを説明していきたいと思います。

 

 私たちが知っているLP盤やEP盤、はたまたお年を召した方がご存知の浪花節や浪曲等SP盤と称する円盤のレコードはすべて「横振動」記録です。

 

 このレコードの溝を拡大してみると波形に刻まれているのが分かりますが、エジソンは縦振動、つまり溝の高低差を音として記録しています。 

 

 

 

エジソン蝋管レコード

 

  エジソンレコードは1900年頃にシリンダーレコード(円筒管)と呼ばれ、最初は蝋蜜で作られその後素材はセルロイド等に変わりました。

 

 

 

 

 

各種蝋管(シリンダーレコード)

 

 

 

  写真では分かりにくいのですが円筒の表面に溝がスパイラル状に刻まれていて、レコード針で円周上をなぞって音を出します。針には振動板と

 

 リンクしていて溝の振幅を直接振動板から音にして伝えます。

 

  勿論当時は真空管やトランジスタなどの増幅器があるわけがなく、振動板の小さな音を円錐形のメガホンのようなラッパで反響音を大きな音

 

 として伝えます。

 

  

 

国産蓄音機(横方向の音溝なので、振動板がレコードに対して垂直になっています)

 

 

 

  ここで国産の写真をお見せしたのは、皆さんが知っているレコードの溝は、溝に対して左右に波のように溝に音が刻み込まれている横溝で、当然

 

 振動板も、針先が左右に振れることで左右に振れて音が出ます。

 

  エジソンの円筒レコードは多少わかりにくいとは思いますが、シリンダーレコード表面に音の信号が作り出す溝を左右に記録せず、溝の深さを

 

 変化させその高低を音として記録していました。

 

 

 

 

エジソン蝋管レコードの表面

 

 

 

  従って、振動板は国産蓄音機のように縦ではなく、レコードの表面に対して平行に設置されることになります。

 

 

 

 

再生中の蝋管レコードと振動板の位置

 

 

 

蝋管用レコード針

 

  私たちが知っているレコード針は、SP盤用の1曲ごとに交換する使い捨て鉄針(竹針やサボテンのトゲ針もありました)とか、EP・LP盤用の

 

 ダイアモンドを用いた小さな逆円錐針の先の尖ったものです。

 

  しかしエジソン蝋管用レコード針は、溝の中に先端をいれて左右に振れる構造ではなく、溝の山をトレースしていきます。このため写真のよう

 

 に小さなこけし人形の頭のような変わった形をしています。いろいろ調べてみましたが、この針の形状を解説した資料は全くと言ってよいほど見当

 

 たりませんでした。そういうわけで、まずは顕微鏡で見た針先を見てみましょう。

 

 

 

     

 

 

 

針先を横から見た写真              針の蠟管の溝に接触する面

 

 

  少々説明が下手で申し訳ないのですが、蝋管の溝が作り出す高低なぞるため、こけし形状の胴体部分で針を固定し、こけしの頭部分に相当する

 

 丸い部分の側面が蝋管溝の溝の山と山にまたがるように置くことで溝の高さに従い針が上下するようになっています。

 

 

 

 

 

 

エジソン蝋管蓄音機(モデル:ファイアサイド

 

 

 

 

 

 

  この写真のモデルは1909年の発売されたファイアサイド(Fireside)モデルで、初期に発売された蝋管の2分用と、次に発売された蝋管の

 

 4分用の両方が再生出来るように設計してあります。再生時間に合わせギアの切り替えを行うことでどちらでも再生が可能な蓄音機です。

 

 但し、針と振動板がセットになったレプロデューサーと呼ばれるものが2分用と4分用では針先の太さが異なり、レプロデューサー自体の交換を

 

 する必要がありました。(レプロデューサーのHタイプはスライド式で両方の針先がついています)

 

 

 

 

 

振動板がレコード溝と平行になっています

 

 

 

  1915年には大きなホーン(ラッパ)が箱に納められたアンベローラモデルが発売されましたが、すべて4分用蝋管専用モデルでした。

 

 

 


 

 

 

 

円盤型レコードの出現

 

  エジソンは蝋管レコードの性能に自信を持ち、しばらく他の発明に没頭している間ビクターなどが円盤レコードを発売して販売が蝋管レコードを

 

 追い越しました。しかしエジソン氏は縦溝方式の技術的優位性を疑わなかったので、エジソン社による円盤レコードの開発は遅れてしまいました。

 

  その後、エジソン社は遅れながらも円盤レコードを開発したものの、音質にこだわり縦溝記録方式をここでも採用したためその技術的問題から

 

 レコードの厚さが6㎜とかなり厚く且つ重いものとなってしまいました。

 

 

 

 

 

エジソン円盤型レコードとレコードプレイヤー(写真では分かりにくいですがレコード盤が非常に厚いものです)

 

美しい仕上げを施されたダイアフラム、アコースティックチューブが印象的です。

 

 

 

  写真の通り、円筒形蝋管と同じく縦振動なので振動板(レコード盤に平行になっているオタマジャクシのような部分)がレコードと平行になって

 

 います。

 

  ハードが完成し劣勢を跳ね返そうとするなか、エジソン氏は販売するレコードの曲目選定などで、個人的にクラシックを愛好していたため新型蓄

 

 音機販売のためにクラッシックのレコードを作りました。そこでその演奏者への報酬が高くなることから、それを抑えるために無名の歌手や演奏家

 

 を録音に使いました。その結果は散々だったようで、エジソン社は蓄音機事業から撤退することになりました。

 

  尚、エジソンのレコードはダイアモンドレコードと呼びますが、これは再生用のレプロデューサーの針先にダイアモンドを使ったことに由来し

 

 ています。

 

 

 

 *ご紹介しました機器類とレコード類は当社ギャラリーに展示してありますのでご自由に再生してみてください。真空管などの増幅器を一切使わ

 

  ない、直接録音と直接再生である100年前の音がよみがえります。(教育関係の方にはエジソン蝋管・レコードを無償にてお譲り致します)

 

 

 

 

2014年 10月14日 中鉢 博

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