- 2017.1.13 -
T&C Classic Audio Equipment Gallery
第十四話 1920年代の米国製ラジオと芸術
第14話は1920年代の米国製ラジオと芸術性についての話題です。
当館が保有するラジオは多くが1920年代の海外製品です。
日本でラジオ放送が始まったのは1925年ですが欧米ではすでにラジオ放送が実用化されていましたので1923年頃からウエスチングハウス社など実に多くのメーカーがラジオの販売を始めましたが価格も高かったので自作ラジオも盛んになり安価な鉱石ラジオから真空管を用いたラジオまでラジオ雑誌には多くの部品カタログが掲載され、またラジオの作り方の記事も多くありました。
ラジオ雑誌 1923年1月号ラジオ部品広告記事 |
遅れて日本でも1925年頃より数社のラジオメーカーより販売が開始されましたが電源と技術をさほど要しない自作の鉱石ラジオから徐々に高感度の真空管式へと移っていきました。
欧米とは文化に違いもありラジオに要求されるのはラジオ感度が良い事と鳴ることが主体で開発設計されていましたのでデザイン性はほとんど考慮されていませんでした。
また、物資や技術力の差からでしょうかどのラジオも本体は四角い木製箱で茶色塗装とお決まりのデザインでした。
余談ですが、ラジオ放送開始から90年以上経過しているものの周波数や音声方式などは現在もほとんど変わりなく多少の修復は必要なものの90年以上前のラジオが今も現役で使うことができる事に驚きを感じます。
当館で入手しました米国製のラジオで100年近い年月が経過しているにも関わらず埃を払って通電したら動き出す真空管ラジオが複数台存在することにもまた驚かされます。
デジタル化が進む現在はすでに一世を風靡したアナログテレビもデジタル化の波に押されて、故障は無くてもすでにアナログ放送が中止されていますので白い画面がむなしく光るだけになってしまいました。(悲しい事ですがスーパーマンや月光仮面と共に過ごしたアナログテレビも現在は何の役にも立たず廃棄処分の運命となってしまいました)
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日本製の初期ラジオは内部に使われた部品も無駄が極力排除され価格を抑え込んだ設計となっていますので戦前に日本で作られたラジオは部品劣化が激しく、現在再生を試みた場合には手入れ無しで作動するものは皆無と言えます。
また、日本の高温多湿の気候性から何十年も保管されたラジオは腐食や錆など痛みが激しく、また木材の本体もネズミにかじられたものも多々あり綺麗に保存されたものが少ないようです。
上記の山中電気製ラジオはダイアル表示に世界地図を模した日本製では斬新な部類には入ります。尚、当館にあるこのラジオの上部に当時の逓信省発行の受信許可証がありラジオ放送を聞くもの許可制であったことがうかがえます。
1925年(昭和元年)前後の米国製ラジオを見ますと、私が一番お気に入りのメトロダイン社ラジオがありパネルデザインにツタンカーメンの墓に有った若い女性の絵を模していますが黒地に金色の線で描いてあり周波数調整ダイアルなどを巧みに配して見事なデザインとなっています。
メトロダイン社 パネルデザイン |
次に、米国シカゴにありましたモホーク社のチェロキーラジオで原住民インディアンのモホーク族とチェロキー族の名前を使ったラジオですが、木材のキャビネットに麦穂と思われるデザインの彫刻がある金属板がいかにもインディアンを連想させるラジオです。
モホーク社 1928年 |
少し変わったラジオとしてフェデラル社のモデル59が有ります。
1923年から発売されたラジオですがプロフェッショナル向けまたはマニア向けに作られたラジオで論理的に考え有られる性能を最高に引き出すことが出来るように大型コイルと細かなタップ切替や各調整点をそれぞれ独立して調整できるよう全て全面パネルに取り付けてありマニアックな見応えのあるラジオに仕上がっています。
また、内部機構も振動吸収構造にするなど合理的な配置構成ですが価格も1923年当時で$177と高価なラジオでした。
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その他各社独自のユニークなデザインと構造ですが、面白いものとして当時の棺桶屋は木工細工ですので棺桶とラジオ用のキャビネットも作る会社もあり、なんとなく棺桶を想像するキャビネットデザインがあります。
このように1923年~1930年頃のラジオはラジオそのものが家具と調和するデザインですのでわざと大型化したりきれいな木彫りの装飾など豪華で美しい作りになっていますが、日本と異なり幸いなことに比較的湿度が低い地域が多く100年以上住んでいる家屋も多いので屋根裏などに 長期間保管しても痛みが少なく程度が良い製品が残っています。
そして現在でも十分観賞できるデザインでもあり装飾品としてもまだまだ使用できる製品が沢山あることに嬉しさを覚えます。
最後に1925年に発売されたスピーカーですが前面と後面の両面に同じ木製彫刻の飾りがつけられスピーカー本来の性能からすれば無用の飾りですが、そこはやはり無機質な一般スピーカーと異なり素晴らしい芸術性を感じる一品です。
このように大正の終わりから昭和の初めに作られた米国製のラジオやスピーカーなどには日本製には感じられない芸術性の高さの他にやはり国民性と感性の豊かさそして国力の差を強く感じるものが有ります。
ご紹介したい製品がまだたくさんありますが機会が有れば順次ご紹介させて頂きます。
平成29年1月13日
中鉢 博