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古典音響機器ギャラリーT&C Classic Audio Equipment Gallery

〜半導体開発の原点に立ち戻る〜

- 2020.03.25 -


T&C Classic Audio Equipment Gallery

第二十一話         ストリートオルガンについて その2  "Gem" ローラーオルガン 

第二十話でご紹介しましたストリートオルガンについて二十一話では“GEM”卓上ローラーオルガンです。

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"Gem" ローラーオルガンの概要

1895年製 ニューヨーク州のオートフォン会社製で約1880年から1920年まで一般の人々を楽しませたユニークなオルガンです。

オートフォン会社は、手動で回すローラーオルガンの生産を始め"ローラーオルガン"または"アメリカンミュージックボックス"と呼び、最も安価な写真の"ゲムローラーオルガン"は最も人気がありました。

COB(トウモロコシのようなイメージだからでしょうか)と呼ばれる楽譜が記録された3個のCOBローラー付き$3.25の小売価格でシアーズ・nローバックなどと契約し販売を始めました。

開閉式のフロントカバーなどの機能を備えた上位機種も用意され、楽譜が記録された1200以上のタイトルのCOBと呼ばれるローラーが何十万も販売されたようです。

早速手に入れた“GEM” ローラーオルガンは思った以上に保存状態が悪く、前の所有者が修理を試みた箇所がいくつもありました。

120年以上経過していますので仕方ないとは思いますが、フイゴや逆止弁の生地など可動部分はほとんど使い物にならないために局所的に修理を始めると次々に不具合箇所が現れたので一部補修を諦めてすべて分解し、補修材として入手困難な可動部分に使われている布地に防風処理を施した布は当時の高級機に採用されている革で張り替えました。

当時のオルガンなど高級品は可動部分に革を使っていましたので近所のお店で革を購入し張り替えたところ予想に反して一般的な革は厚みがあって使えないことがわかり、他のお店を回り何とか薄い革を探し出してオリジナルから採寸した通り加工し修理を試みました。

0.5㎜以下の厚みの革はなかなか販売している店は少ないようです。

オルガン修理は初心者の私にとって、今まで他のオルガンは加圧式で音を出す方式でしたのでこの“GEM”も当然加圧式と思っていたもののこの”GEM”オルガンは真空引き構造でした。

丁度、ハーモニカを鳴らすときに息を吹いて音を出す部分と息を吸い込んで鳴らす部分がありますが、この吸い込んでリード弁を振動させ音を出す構造が使われていました。故にふいごは加圧式で空気を押し出すものと思い込んでいましたがオルガネッテはふいごの出口と入口を逆に使った真空引きでした。

このオルガネッテは音階が20音あり正面に小さなふたが20個ありますが、音楽に合わせてこのふたが開いた穴から空気を吸い込んでリードを振動させ音を出します。

このふたを開けるのにCOBと呼ばれる円筒形の筒に打ち込まれたピンがCOBの回転に合わせてふたの機構を駆動します。

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分解・修理中の写真

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COBの写真

真空引きをする機構はフイゴの吸入・排気部分を逆に使っただけで、本体上部の部分は真空(真空とは言っても人間が吸い込む程度の負圧ですが)チャンバーの役目をしており真空度が高まると負圧で脇の布地はへこみ上部の板が沈み込みこんで小さくなり真空度が下がると沈み込んだ上部の板がスプリングの力で浮き上がって真空度を維持し、ある程度一定した真空度を平均的に維持することで音の安定性を保っています。そのためにこのチャンバーが無いとフイゴの吸入・排気に合わせて音がふわふわした状態となりますので大事な要素と思われます。

真空度が高まるとふいごの負荷が大きくなりますので適度の負圧になると安全弁が働き一定以上の負圧にならない機構も付いていますが、何のことはなくチャンバーに空けた小さな穴を板とスプリングで押さえているだけの構造です。

楽譜は写真にあるようにCOBと呼ばれる円筒形の木筒にピン(頭のない釘)を楽譜に合わせて円周上にそれぞれの音階に合わせて打ち込んであり、この円筒形の木筒を交換することで演奏曲目を変えます。尚、1回転では演奏時間が短かすぎますのでスパイラル上状に右へ少しずつ移動しながら3回転で一曲が終わるようになっていて1分ほどの演奏時間です。1曲の演奏はCOBが回転しながら正面から見て右へずれて移動しますので演奏が終わると自動的に左のスタート位置へCOBは大きめな音でドンと戻りますが、クッションが無いので金属同士が当たる音は少々大きくびっくりする感じです。

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回転機構の写真

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リードブロックの写真

さて、修理が終わって幾つかのCOBを演奏したのですが知らない曲とはいえ変な曲と伴奏だなと思いつつこのような程度のオルガンなのかと思っていましたが、リードの具合が悪い音階が有りましたので再度分解して修正したところ取り付けの際にリードブロックの左右がどちらでも取り付けられることがわかりましたので“もしや”とおもい左右を逆に取り付けて組み立て演奏してみましたところ正常な曲の演奏となることがわかりました。

前の持ち主が分解の際に逆に取り付けた?と思われますが、それにしても楽譜の高音と低音が逆になっても知らない曲目であればそれらしく音楽っぽく聞こえ、すぐに気が付かなかった自分に思わず笑ってしまいました。

復元後にハンドルをくるくる回して(結構忙しい回し方です)演奏しましたが、結構大きな音で鳴り聞く人を楽しませてくれるものの演奏が1分少々と短いのが欠点でしょうか。

でも、ハンドルを回し続けると何回でも自動リピートしますので2~3回連続再生しても聞いている人は気が付かない?かもしれません。

手元に20曲程度のCOBがありますが120年以上前の曲で知っているものは少なく手持ちの木筒は多くが教会で使われた讃美歌などでした。


ストリートオルガン制作の途中経過その2

さて、製作中のストリートオルガンの進行状況です。

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革を張ったふいごの可動部分ですがこの構造は昔から採用されており良くできた構造と感心しました。加圧しても力が分散して革が外側へ膨らむことなく、逆止弁に相当する箇所は穴が開いた部分に革の内側を当てただけの簡易な構造ですが予想に反して革の逆止効果はびっくりするくらい良好でした。

架台の写真は前回お見せしましたので、今回は音を出すパイプの制作です。

ここが大事なのですが、簡易に作ったパイプでは思うような音が出てくれませんでした。単にパイプと甘く見ていたのですが角パイプはさほど難しくないものの音を出す部分の空気の流れは微妙で、間隙など試行錯誤の結果やっと音が出るコツがつかめた次第です。

さらに、パイプの寸法は調べたところ各音階毎に理想寸法があるようで微妙に少しずつ異なっています。

各音階毎に木材の切り出しを考えるとプロでないと困難と悟りまして、では現実的に作るにはと考えると通常の管楽器は内径は固定ですが空気抜けの穴の位置で音階を変えていますので、それならばと同一パイプの長さだけで音階が作れると思い試したのですが、細くて長いまたは太くて短い構造では音量や音質に問題があり、結局今回のストリートオルガン用パイプで考えると同一パイプで長さを変えるだけでは半オクターブ程度が限界のようです。

だとすれば今回は14音階または20音階での検討ですので3~4種類のパイプを各5本程度用意して長さのみの調整で何とかなりそうです。

尚、このパイプは空気通路のサポートを含めてすべて木材と接着剤で作っています。

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令和2年3月25日

中鉢 博

 

 

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